秋の雲は劇場的というか、目を見張る。
こんな空を見るたびに思い出す雲がある。
小学校の帰り道。三年生か五年生かはっきりした年代も思い出せないけれども、
一緒に帰ってた友だちとふたりで、ちょっと休むつもりで階段の途中に腰かけて
なにげなく空を見上げた。
そこにはポツンと一つだけ、ひとかたまりの丸い雲が
すぐ上に、もしかしたら手が届きそうに思えるほどの距離感に浮かんでいた。
あまりに近い感じがして、息を呑んでその雲から目が離せなくなった。
隣に座ってた友だちも一緒に見てた。
彼女もその雲を見たまま固まってしまってる。
そしてその雲は急に動き出した。
ふたりで「ええ?」と声を上げた。
動きがありえないほど早かったからだ。
まるで生き物のように意思を持ってるかのように動き出した。
ググっとこちら側に向かってくるように見えて
咄嗟に私たちの上に落ちてくるんだ、そんなことってある?と思いながらも
あまりの驚きと恐怖で「わーっ!」と座ったまま後ろにのけぞってしまった。
雲は落ちてくるのではなく、ひっくり返った。
しばらくぽかんと二人で見つづけていると、
徐々に形を変えて普通の雲のようになって流れていった。
こんな経験はこれっきり。
というか、そんなに雲をじっと見ることもないけれども。
あれは何だったんだろう。
小学校は山の上にあり、山から下ってくる坂の途中でのできごと。
友だちは今も覚えているだろうか。
友だちも今も思い出すことがあるんだろうか。
ね、あれはほんとにびっくりしたね。
気象的には、山の天気などにはよくある珍しくないことなんだろか。
雲に押しつぶされると思ったあの恐怖感は忘れられない。
そんなことあるわけないのにね。
秋の雲を見るたびに思い出すから、きっと秋のできごとだったんだろうと思う。